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長谷川宏『新しいヘーゲル』(講談社現代新書)

 

新しいヘーゲル (講談社現代新書)

新しいヘーゲル (講談社現代新書)

 

 ヘーゲルの平易な入門書。ヘーゲルは近代的な哲学者で、独立した主体としての意識を前提とし、その弁証法的な多領域にわたる遍歴を『精神現象学』で書き表した。意識は最終的に「絶対知」に至るとされ、そこにおいて普遍的な学問の世界に至れる。『精神現象学』は、意識が学問に至る悪戦苦闘の旅を書き表しているのだ。

 ヘーゲルは、『精神現象学』を導入として、その後本来の学として論理の学・自然の学・精神の学が展開されると考えた。世界は体系的にできていると考えたのである。ヘーゲルにとって、自然は精神より劣る。人間の自然支配という近代の傾向に沿っていた。

 ヘーゲルにとって芸術は共同体精神を体現しているものでなければならなかった。公共性に向かう人たちの共同体精神が、公共的な宗教・公共的な芸術を求める。古代ギリシアの芸術は共同体精神を体現していたが、ロマン主義的な個人主義的芸術は共同体精神を体現していない。それに代わるものとしてキリスト教の精神が挙げられる。ヘーゲルにとって宗教は現実に限りなく近づいたものとなる。

 本書はヘーゲルの入門書であるが、ヘーゲル哲学の近代性に主に焦点が当てられている。本書は近代哲学の発展を記したものといっていい。キルケゴールマルクスニーチェなどによる後代からの批判にも触れ、しっかりヘーゲルを相対化しているところにも好感が持てる。ヘーゲルは近代性を推し進めていくが、もちろんその体系にはほころびもあるし、その体系が覆えなかった部分もある。いずれにせよ、ヘーゲル入門としては最適であると考える。