社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

今村仁司『群衆ーーモンスターの誕生』(ちくま新書)

 

群衆―モンスターの誕生 (ちくま新書)

群衆―モンスターの誕生 (ちくま新書)

 

  群衆とは危機の中で生まれる、差異が解体され皆が一様になった集まりである。そこでは理性による自律という近代人のパラダイムが成立せず、人々は互いに模倣し合う。

 カネッティによれば、群衆は常に増大することを望み、群衆の内部には平等が存在し、群衆は緊密さを愛し、群衆はある方向を必要とする。そして、群衆には、迫害群衆逃走群衆、禁止群衆、顛覆群衆、祝祭群衆が存在する。

 近代の群衆は都市の労働者の群れであり、資本主義社会の発展に基づく。ベンヤミンによれば、群衆社会とはアウラなき社会であり、群衆は多くの知識人に驚きと興味を持って迎えられた。マルクスは群衆を革命的プロレタリアートへと変貌させることを期し、逆にニーチェは群衆を賤民とみなし超人によって乗り越えようとする。

 近代群衆は恐怖と魅惑を引き起こすものである。近代社会は自律的個人の理想を掲げながら、同時にその理想的個人を否定し飲み込む巨大な近代群衆をも生み出した。近代社会は群衆をどうすることもできない。近代群衆はモンスターである。

 本書は「群衆」というものが、一つの思考の対象、思考のテーマとして豊饒なものであることを知らしめるものである。群衆というものは特に近代社会にありふれたものとなったが、それは様々な角度から分析することが可能であるし、様々な感情を引き起こすものである。社会を構成する一つのモチーフとしての群衆のテーマは、現代を論じる際にも決して無視できないだろう。