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社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

事なかれ主義について

 よく、「役所は事なかれ主義で…」などと言われる。実際、役所に限らず、組織というものは自浄作用があり、多少の不祥事をいちいち表沙汰にはしない。事を表沙汰にしてその対応に追われ社会的信用を失うコストに比べれば、内部においてしっかり紛争解決や再発防止措置が図られるのであるならば、事を表沙汰にせず内部的に処理した方が賢明とも思われる。組織においては部分社会の法理が働くはずだから、たとえ法に反する事件があったとしても、それに対する適切な対応が行われればことさらそこに司法が介入する必要はない。それは傷口を無駄に広げるだけである。

 問題は、法に反するような事件がありながら、組織の側で適切な紛争解決や再発防止措置が取られないような場合である。組織はそのような場合、疑似的に司法の役割を果たすわけであるが、その司法的作用がうまく働かないまま事実が単に隠蔽されるというケースが存在する。隠蔽で済むならまだよいが、事実は歪曲されたりねつ造されたりもする。事件によって人権侵害が生じた場合、この事実の操作による二次的な人権侵害が生じる恐れもあるのだ。

 事なかれ主義がぎりぎり許容されるのは、組織が手続的にも実体的にもきちんとした司法作用を営み、それ以上の秩序維持措置が必要ない場合である。ところが、組織において違法事実についてのきちんとした手続がとられず、あるいは違法事実への対応の内容が不適切であった場合、部分社会の法理の適用の前提を欠く事態となる。例えば職場で暴力沙汰があったとすれば、加害者への適正な処分、被害者への謝罪など適正な配慮が必要なわけであって、それが満たされなければ組織は準司法作用を果たしていないことになる。その場合はもはや事なかれ主義は通用しない。だから、事なかれ主義によって効率的な組織運営をしたいのであれば、有事の際の内部的な対応マニュアルを手続的にも実体的にもきちんと整備すべきである。それがなされない以上、事なかれ主義は許容されないであろう。