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今村仁司『交易する人間』(講談社学術文庫)

 

  人間の付き合いをは相互行為であり、「交易」である。交易によって人はモノと観念を互いに移動させ、交易を連鎖させながら制度を作り上げていく。本書はその贈与と交換の社会哲学である。
 贈与体制が崩壊することで近代世界が生まれ、私的所有体制の一元化が生じた。資本主義の発生である。資本主義の発生により、相互扶助や客人歓待といったモラルが破壊され、自己関心=自己利益の極大化、功利主義的原理が席巻する。共同所有、人格的所有など、所有類型の組み合わせが求められる。
 本書は社会的人間を根源的に哲学する大変興味深い書物であり、近代の産物としての資本主義体制への批判にもなっている。社会哲学の本の紹介を頼まれたら真っ先に紹介する本だと思う。ここに社会哲学のイロハがあると思う。