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海老坂武『加藤周一』(岩波新書)

 

加藤周一?二十世紀を問う (岩波新書)

加藤周一?二十世紀を問う (岩波新書)

 

 加藤周一は戦後を代表する評論家であり、合理的な観察者であった。彼の功績としては主に、雑種文化論、『羊の歌』による戦後社会の描写、日本文学史などが挙げられる。

 雑種文化論とは、日本の文化には日本と西洋が混ざり合っていて双方とも抜き難く混合している、という主張であり、それゆえ片方を純粋化する国民主義近代主義は誤りで、むしろこの雑種性が積極的な意味を持っているとするもの。

 『羊の歌』は加藤自身の自伝であり、活気にあふれあらゆる方向へ創造性があふれる戦後日本を活写している。

 『日本文学史序説』は文学史を問い直す画期的な論考である。日本において思想は文学において表現され、 同じ言語による文化が持続的に発展していき、文学は主に都会の文学であり、日本人の世界観は外来文化の日本化により形成されてきた。

 加藤周一は鋭利な知性を備えた戦後を代表する評論家であり、彼についての手ごろな概説本が出たのは嬉しい。今実際彼の著作を読んでいるところであり、その助走として全体観を把握できてよかった。まずは過去の偉大な業績を消化することから現代の新たな評論は始まる。