社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

清水真木『友情を疑う』(中公新書)

 

友情を疑う―親しさという牢獄 (中公新書)

友情を疑う―親しさという牢獄 (中公新書)

 

  友情についての哲学史。友情論の根本問題は、それが公的空間におけるものかそれとも私的空間におけるものかという問題である。

 キケロは友情によって公共性に反する行為を取ることを悪とみなした。アリストテレスは友人との付き合いは共同体の基礎となる公的なものだと考えた。

 それに対して、モンテーニュはたった一人の親友との私的な友情に神秘を感じ、公的な行動よりも優先した。さらに、その後の道徳感覚を主張する哲学者たちも、人間の利他性や共感による友情を認めた。それゆえ万人が万人の友人となりえるのだった。ルソーに至っては、弱い人間同士の間の憐みによって真の友情が生まれるとして、友人は互いに秘密を持ってはいけないなど主張した。

 フランス革命では、自由・平等・友愛が掲げられたが、ここでの「友愛」は政治的信条を一にするという意味であり、信条の違う相手を排除するという危険なものであった。

 清水真木は、哲学の痒いところを突いてくる。普通に暮らしている人が、ふと「これって何だろう」と思いを致すような日常的なテーマについて、哲学者たちの意見を整然と並べるのが得意である。今回は「友情」というテーマで哲学を整理していたが、それが公共性にかかわる問題であるということは目から鱗であった。日常的なテーマはもっといろいろあると思うので、どんどん哲学的に解説を加えていただきたい。