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今村仁司『ベンヤミンの<問い>』(講談社選書メチエ)

 

  ベンヤミンの思想に入門するに適した明快な解説書。

 ベンヤミンは引用や断片からなる「パサージュ論」を書いているが、ここにおいては個物や断片が重要な意味を有していて、それぞれが作品である。名前や言葉の重視はベンヤミンにとって重要なモチーフである。ベンヤミンは自分の全仕事を「パサージュ論」につぎ込んだ。

 ベンヤミンは歴史を自然として見、自然を歴史として見た。人間の歴史は廃墟であり、廃墟としての歴史はもっとも人間的で自然史的である。歴史とは敗者、つまり個物の歴史であり、個物の「このもの」性に凝縮した時間と歴史が宿っている。

 本書は難解さで知られるベンヤミン思想を明快に切り取ってきた好著であり、ベンヤミン入門にふさわしい。今村仁司の明晰な知性はさすがである。ベンヤミン歴史観はそれまでの歴史観に大きな一撃を与える重大なアイディアであり、そこから見えてくる人間史は通常の世界史とは全く異なる構造を持つ。とにかくベンヤミンについて知りたいなら初めの一冊にぜひ。