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吉見俊哉『夢の原子力』(ちくま新書)

 

夢の原子力―Atoms for Dream (ちくま新書)

夢の原子力―Atoms for Dream (ちくま新書)

 

  戦後日本が核をどのように受容していったかについての文化史。

 原爆は確かに世界中に恐怖を与えた。だが、アイゼンハワーは「アトムズ・フォー・ピース」という演説で、原発などの原子力の平和利用を訴え、広島・長崎を忘却させようとした。戦後日本はアトムズ・フォー・ピースを積極的に受け入れ、いつしか原子力は夢のエネルギー「アトムズ・フォー・ドリーム」と化していった。その先駆的な出来事が原子力平和利用博の開催だった。

 一方、戦後日本の無意識の部分には依然核兵器による敗戦の傷が残っていた。それはサブカルチャーにおいて表象されることが多かった。例えばゴジラは、ビキニ沖で被爆した第五福竜丸、そして広島・長崎の恐怖により生み出されている。この壊滅的な破壊の表象は、多種多様な仕方で日本人の無意識に流れ続け、多数のアニメなどを生み出している。

 本書は福島第一原発事故を受けて、改めて日本にとって原子力とは何であるか問い直したものである。原子力は常に二面性を持っており、日本に投下された原爆もまたその二面性の中で引き裂かれた。今回の原発事故は日本の原子力史に大きな項目を作り上げるものであり、それが今後どのように日本人の無意識から表象されていくか興味のあるところである。