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白石典之『モンゴル帝国誕生』(講談社選書メチエ)

 

モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る (講談社選書メチエ)

モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る (講談社選書メチエ)

 

  考古学などの知見をもとに、モンゴル帝国誕生の秘密に迫った本。

 大帝国を築いたチンギスの戦術には遊牧生活のノウハウが見え隠れする。彼には優れた「遊牧リテラシー」があった。草原力の変化に応じて的確な行動をし、遊牧民が歴史の中で培ってきた遊牧知を適切に運用することができた。

 具体的には、「馬・鉄・道」を確保するための遷地を適切に行う「シフト戦術」、鉄資源を獲得するためのロスやコストを減らす「コストダウン戦術」、臨機応変で機動的・可動的な鉄生産を行う「モバイル戦術」、一極集中による危険を回避する「リスク回避戦術」、モンゴル高原全体を覆う道路やネットワークを構築する「ネットワーク戦術」である。

 本書は、チンギス・カンがなぜ大帝国を築くことができたかという問いに答えることを主眼としており、チンギス・カンにまつわる細かい歴史的事実を祖述するものではない。その秘密は何も特別なところにあったわけではなく、遊牧民が普段用いている遊牧知を有効活用したというその点に尽きるとしている。なかなか楽しい読書だった。