「公人の、専門家による、万人のための口述記録」としてのオーラルヒストリーの理論と実践について書いた本。ちなみに著者はオーラルヒストリーの第一人者である。
政治家や官僚は自分のなした仕事について沈黙を貫くことが多かった。だが、彼らに入念なインタビューを行うことで、通史とは違った独特の歴史資料が現れる。そこに生まれるものをオーラル・ヒストリーという。オーラル・ヒストリーによって、人の歴史だけでなく組織の歴史も明らかになってきた。また、インタヴューすることで初めて明らかになる歴史の事実もたくさんある。
実践方法としては、同意を得、質問票を用意したり、書き起こしたりと様々な手間がかかる。実際のインタビューでは相手の話を引き出す工夫が必要だったり、様々な技術が用いられる。歴史資料として通用するオーラルヒストリーを作り出すためには様々な工夫が必要である。
歴史資料の取材の重要な方法としてのオーラルヒストリー。本書はその道のプロがその実経験に基づき、その限界(嘘やつじつま合わせなど)を了解しながらもオーラルヒストリーの有用性について語っている。ところで最近質的社会学の方法としても同じようにインタヴューの方法が取られていて、岸政彦などが著作を出している。フィールドワークにおける聞き取りと本書で論じられているオーラルヒストリーを比べてみると面白いかもしれない。