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植原亮『自然主義入門』(勁草書房)

 

自然主義入門: 知識・道徳・人間本性をめぐる現代哲学ツアー
 

  哲学の諸問題を科学でもって解決しようとする自然主義の入門書。

 自然主義の概略は、①ノイラートの船の比喩、②異星人の科学者の視点により捉えることができる。ノイラートの船とは知識の形成や理論の改訂において哲学者も科学者も同じ船に乗っているという主張であり、哲学と科学の連続性や知の歴史的継承性を主張するものである。異星人の科学者の視点は、人間をあくまでも生物の一種としてとらえる非例外主義的な視点である。

 このような原理的視点から見ると、心が生得的に出来上がっているとする生得説と心は経験によって形成されるという経験主義の対立を、人間の心が直観的に働くシステム1と熟慮的に働くシステム2の二つのシステムから成るとする考え方で解消できる。また、人間の独自性を理性や言語に求める伝統的な合理説に対しては、人間は生まれながらのサイボーグであり、人工的な思考ツールを取り込み環境に築かれた外的足場と協調できるようになっているという自然主義的な反論がなされる。

 分析哲学の大きな流れである自然主義の入門の入門というべき書物である。教科書的に構成されながらも議論の面白さを損なわないという優れた入門書であるといえる。非常にわかりやすく単純化されて書かれているが、自然主義の実際の議論はもっと複雑で難解なものである。賛成するのであれしないのであれ、現代哲学は自然主義の方向に向かっている。