教養主義の変遷を描いた教育社会学の本。旧制高校の特に文学部で栄えた教養主義は、人文学を中心とする教養に重きを置いた。旧制高校の教養主義は農村的で人格主義や理想主義と結びついていた。旧制高校が新制高校にとって代わると、石原慎太郎に代表されるような享楽的で反知性的な態度に取って代わられた。だが戦後、教養主義はマルクス主義と結びつくが、結局新興ブルジョワから見たら時代遅れだった。そして、1960年代後半になってくると、大学のマス化が進み、大学生は知的特権階級ではなくサラリーマン予備軍に過ぎなくなり、教養は不要となり、それよりもテクノクラート的な技術知が求められるようになる。そうして教養文化は没落していった。
本書は教養主義の歴史的変遷を文学作品などをベースに追っていて、きわめて興味深い。私などは教養人をもって自任しているが、教養人ももはや居場所を失っているのかもしれない。ただ、時代の趨勢として教養主義が衰退したということを社会学的に明らかにしているだけであって、教養主義そのものの価値については本書は何も言及していない。教養について考えるには類書をもっと読もうと思う。