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金慧『カントの政治哲学』(勁草書房)

 

カントの政治哲学: 自律・言論・移行

カントの政治哲学: 自律・言論・移行

 

  カントの政治哲学について緻密に論じている知的刺激に満ちた本。

 カントは単に政治の理念を掲げるだけではなかった。現実から理念への移行についても思考していた。移行とは、望ましい政治社会の理念への接近の方法であり、常に漸進的なものであった。

 移行には三段階ある。まず自然状態から法的状態への移行である。法はすべての人が有する根源的な権利を保障するために存在し、強制的である。自然状態とはこのような法が不在で、各人の私的な意志のみが存在する状態である。法は人々の統合された意志に基づき、このような意志は共和制においてのみ成立可能である。

 政治的自律とは国家機関を媒介として成立する共同的な自律である。それは、人々の統合的な意志の成立、根源的契約の理念から成立する自律である。政治的自律を制度化した政治体制が共和制である。共和制には法の正当性に関して自らの意思を表明する自己立法の実践とそれを可能にする思考様式が求められる。

 共和政は国際社会の秩序化に貢献する。自己立法の原理が保障されていれば、戦争を避け平和を望む傾向を持つ。国家が共和制へと移行することは、国際社会に平和状態をもたらす可能性が高い。

 本書において、カントの政治哲学がカントの他の思考体系と連続性を保ちながら展開していくのが見て取れる。カントの哲学の体系性が政治哲学においてもあらわになっているといえる。現代の哲学者がいかにカントに影響を受けたかについても論じられており、カントの政治哲学の射程の広さが分かる。久しぶりに哲学のスリルを感じた。