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用地職員の仕事

 用地職員の仕事は風景に始まり風景に終わる。これから工事を施工しようとする現場の土地を踏査することから始まり、工事が完了した後の土地を検査することで終わる。工事施工前の現場の風景を見ることから始まり、工事施工後の現場の風景を見ることで終わる。
 用地職員の仕事はきわめて具体的だ。ただ数値化され画像化された情報を処理するだけの仕事ではない。そこには全感覚に訴えてくる土地の状況があるし、実際に買収する土地に行く際の具体的な経路があるし、地権者との用地交渉において地権者は具体的な人間として現れてくるし、工事の各施工段階の土地の具体的な姿がある。用地職員は単に情報を扱うのではなく、そのような具体的な経験を扱うのである。
 用地職員の仕事はそのように具体的でありながらきわめて論理的だ。土地を買収する際の定まった手続き、根拠法令、契約条項、経理的な処理など、すべて論理的体系的に定められた仕事を行う。そのような論理の厳密な定めに従いながらも、具体的な現実を処理するために適切な裁量を行使するのである。例えば土地の価格決定の落としどころはどこか、地権者にどこまで詳しく説明するか、契約の柔軟な解釈などである。
 ここには法適用の現実的な事例が現れる。具体的な事実を定まった論理にどのように当てはめていくか、その際に論理をどのように運用していくか。行政が常々直面している論理と具体との相克が顕著に現れる。
 だが、最終的には用地職員の仕事はやはり具体的なレベルでの達成感によって完結する。例えば自分が買収した土地に道路や構造物が出来上がる、その成果を目をもって確認することができるのである。成果を実感するということ、それも全感覚を持って実感するということ、ここに言いようのない感動があるのだ。用地職員とはこのように論理を携えながらも飽くまで現場で生きる仕事をするのである。