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伊達聖伸『ライシテから読む現代フランス』(岩波新書)

 

  ライシテというフランスの政教分離制度に関する入門書。

 ライシテは、法制定当初の20世紀初頭においては、政府とカトリックとの間の対立を生み出した。だが、カトリック系私立学校に対する補助金の拠出など、宗教と政治の領域を峻別する「分離のライシテ」から宗教の社会的・公共的な役割を認める「承認のライシテ」へとライシテは移行し、カトリックと和解したカト=ライシテが成立する。

 現代ではむしろライシテはイスラームと対立しており、カト=ライシテとイスラームが対立する構図が成り立っている。ライシテは多義性を持った概念であり、フランスがイスラーム化する、すなわちライシテがイスラームに寛容になるか、あるいはイスラームがフランス化する、すなわちイスラームの方でライシテに歩み寄るかの議論がなされている。

 本書はライシテの入門書にしてはなかなか骨のあるしっかりした本だった。予備知識なく読めるが、記述のダイナミズムには目を見張るものがある。日本の政教分離と事情は似ているので、政教分離について考える際ライシテの問題は参考になる。