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轡田竜蔵『地方暮らしの幸福と若者』(勁草書房)

 

地方暮らしの幸福と若者

地方暮らしの幸福と若者

 

  地方で暮らす若者たちの幸福感の実態に迫った社会学的研究。

 ①働き方の問題が核心

 大都市を回避し地方都市や田舎の暮らしをポジティブに受け入れている若者が多く全体的に「幸福」であるが、働き方によって幸福度は様々である。地方安定就職が縮小する中で、多くの人たちは社会経済的な上昇の展望を持つことを難しいと考え高望みしていない。だが、現状維持だけで精いっぱいの人が少なくない。そんな中NPO就職や起業を志す者もいるが、経済的に不安定である。若者たちのライフキャリアの選択肢を増やし、精神的余裕を持って働ける環境づくりが大切である。

 ②地方中枢拠点都市圏と条件不利地域圏の関係

 三大都市圏と地方圏の間の違いより、地方の中枢と田舎との対比が重要である。地方中枢と田舎の間では地域評価の差が大きい。だが、幸福感についてはそれほど差がない。田舎における幸福は十分可能であり、地域外に社会関係が広がっているモビリティが重要である。

 ③社会と関わるモチベーション

 若者たちが社会に開かれていくにあたって、地元愛や地域貢献志向に過剰な意味は持たせられない。個人の幸福と社会の幸福とのジレンマがあるからである。個々人の生活や人生の選択肢を広げるためには、地元・地域を超えた多様な他者との豊かな関係性に開かれることが大事である。

 本書はアンケート調査やデプス・インタビューによって、現代の地方暮らしの若者の幸福度について社会学的に研究した優れた本である。地方創成などが叫ばれている昨今、では実際の地方暮らし、しかもその中枢を担う若者たちはどのような実態のもとにおかれているか、そういうことを丁寧に研究している。実際に地方に住む若者として大変参考になった。