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山脇直司『公共哲学からの応答』(筑摩選書)

 

公共哲学からの応答―3・11の衝撃の後で (筑摩選書)

公共哲学からの応答―3・11の衝撃の後で (筑摩選書)

 

  3・11に対して公共哲学の立場から議論を投げかけたもの。

 人々の支え合いと活気ある社会を作ることに向けた当事者の自発的な協働の場が「新しい公共」である。そのために、私という個人一人一人を生かしながら人々の公共を開花させ政府の公的活動を開いていく「活私開公」、そしてそれを補完するものとしての公務員等による「他者のために私利私欲を捨てて人々の活私開公を実現させる」「滅私開公」が必要である。

 メディアや宗教は、人々に虚構を植え付けるものや原理主義を植え付けるものではなく、人々に開かれた議論の場を提供し友愛と寛容の機運を育むために活かされるべきである。また、今回の事件で技術は自然を制御できないことが明らかになったし、技術は人々を破滅に導きかねないことが明らかになった。科学技術を利用する倫理が問われている。また、グローバルな正義はグローバルな人権論になっており、環境的正義や関係修復的正義が重要になっている。

 本書は公共哲学の主唱者である山脇が、自身の立場から3・11への応答を試みたものである。これまでの山脇の主張と重複する部分もだいぶあるが、様々な哲学者の知見を自分なりに読み替えながら危機へ応答していこうとする意欲は買いたい。やはり3・11へは感情的に応答するだけでなく、このような理性的で倫理的な応答が必要だと思う。