社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

深井智朗『プロテスタンティズム』(中公新書)

 

  プロテスタンティズムの勃興から現代への影響までを丁寧に追った本。

 ルターは「聖書のみ」「万人司祭主義」「信仰のみ」という宗教改革三原則を掲げて、ドイツ語版聖書を刊行し、印刷術で流布させ、宗教の改革を唱えた。それは純粋な宗教上の申し立てであったが、反教皇主義として領邦君主たちに政治的に利用され、宗教改革は政治的な争いとなった。

 ルターの興したプロテスタンティズムはその後体制化し、そこから新たに逸脱していく新プロテスタンティズムが現れる。ルター派は国家や伝統と結びつき保守化するが、清教徒などの新プロテスタンティズムは絶えざる自由を求めてリベラルの源流となる。特にアメリカではリベラルが活発であり、アメリカのグランドデザインとなった。

 この本は単なる宗教改革の本ではなく、むしろ宗教改革のその後を見通している点で優れている。ルター派からさらに逸脱していく多様なプロテスタンティズム。そしてそれがリベラルの源流となるという歴史の展望。宗教改革は一過性のものではなく、その後の歴史に多大な影響を与えたのだということがよくわかる。