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岸政彦『マンゴーと手榴弾』(勁草書房)

 

マンゴーと手榴弾: 生活史の理論 (けいそうブックス)

マンゴーと手榴弾: 生活史の理論 (けいそうブックス)

 

  社会学の質的調査としての生活史の理論を書いた本。

 聞き取りとは語り手との会話であり、それは会話それ自体だけでなく、アポ取りなどの会話以前、手紙のやり取りなど会話以後まで続く。聞き取りにおいて、私たちは語りの「内容」にコミットする。それは単なる話法・ストーリー・ナラティブではなく事実であると信じるという責任が私たちには生じる。語られる内容は互いに整合しないかもしれないが、事実というものは本来間違いを含んでいる。私たちは世界が実在するという日常的な信念のもとで、その世界に関する様々な事柄を語っていく。そして、質的調査は人々とともにあり、人々から介入され、調整されることもある。また、質的調査についてよく言われるあいまいさだが、量的調査についてもその手法上のあいまいさがあるため両者にそれほど違いはない。

 沖縄等において生活史を収集している社会学者の岸政彦による理論編の書物。生活史にこのような理論があるとは知らなかったので、目からうろこであった。生活史の理論はナラトロジー実在論などと関わるものであり、またそれらの理論に単純に当てはまらない複雑さがある。大変興味深かった。