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吉見俊哉『親米と反米』(岩波新書)

 

親米と反米―戦後日本の政治的無意識 (岩波新書)

親米と反米―戦後日本の政治的無意識 (岩波新書)

 

  文化的側面からの日米関係史。

 近代日本における親米と反米は、何層にも及ぶ屈折の中で形成された。

 幕末維新期、アメリカは自由の聖地として理想化され日本の知識人たちは親米的であった。

 二十世紀初頭、大正デモクラシーは再び自由の国としてのアメリカをクローズアップし、映画やジャズなどが流入する中で知識人のアメリカ批判と大衆のアメリカ好みが並立した。

 占領期から1950年代にかけて、親米と反米の対立は先鋭化した。占領期の大衆はアメリカの豊かな生活にあこがれる一方、基地という暴力に対抗するナショナリズムも形成された。

 1950年代以降、暴力としてのアメリカは後景化し、人間天皇や皇室ご一家への注目、技術者や主婦への注目により消費社会型アメリカニズム=ナショナリズムが確立する。

 70年代以降、アメリカはもはや他者ではなく、日本はアメリカを取り込んでいった。

 本書は親米と反米という観点から日本とアメリカの関係を文化史的に考察した新書としては重厚な本である。日本というものが占領期やベトナム戦争時の反米運動にもかかわらずアメリカと同一化し、もはや日本とアメリカを区別することは難しく、今となっては親米・反米とは違った次元に日米関係は至っているようだ。アメリカは現代日本を語るうえでは避けて通ることのできないものとなっている。