社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

互有

 夫婦関係は互いに互いを所有し合う関係、つまり「互有」関係だと思う。基本的に、自己は自己のみを所有し、自己を他人から所有されることを拒絶し、自己が他人を所有することを慎む。ところが、恋愛関係や夫婦関係においてはこの原則が崩れるのである。
 夫婦関係においては、人格的にも身体的にも二人が互いに浸透し合う。夫婦は互いの自由をある程度束縛し合いながら生きていくし、性交渉などで互いの身体のプライバシーの高い領域に入り込む。夫婦は相互にある程度互いの人格や身体を所有しているかのように思える。
 この互有関係は、相手を支配することと、自己を相手に譲り渡すことによって成り立っており、これは愛の二つの側面に対応している。愛する男女は相手に対する強い執着を持つ一方、相手に対して自己の領域に侵入することに寛容になる。愛の二つの側面によって、夫婦は互いに自己の所有権をある程度相手に譲与するのである。
 互有関係は夫婦が互いに相手を欲望し、互いに相手を許し合っているときに成立するので、この互有関係が崩れるときが夫婦関係が壊れるときである。崩壊した夫婦の下ではこの互有関係が成立しておらず、夫婦はもはや互いを所有せず、まったく赤の他人である。互有関係は夫婦が夫婦であることの存立条件である。