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政治と文学

 政治と文学については多くの議論がなされてきた。有名なものでは第二次世界大戦後に交わされた「政治と文学論争」があり、文学の政治への機械的従属VS文学の政治からの自立・作家の主体性獲得、という論争がなされた。私としては政治と文学のどちらかがどちらかを支配するというより、作家が主体的に文学を制作しはするけれど、そこには必ず何らかの政治的なモメントが含まれている、と考えている。政治と文学は不即不離なのである。
 文学は多くの場合、作家の実存に食い込んできたものを表現する。いわば作家はみずからの実存に食い込んできたものの衝撃に耐えきれず作品を書いてしまうのだ。実存への嵌入ということが文学作品の成立の動機となることは多いはずだ。ところで現代社会において、これだけ人々が文化や制度にまみれて生きていると、作家の実存に食い込んでくるものはたいてい何らかの社会性を帯びている。それはその時代の人間関係であったり、その時代の科学技術の所産であったり、その時代の社会的制度だったりする。例えば就活に失敗した主人公を描く場合、そこでは現代の雇用制度が深く実存に食い込んでいるだろう。また、例えばウェブ掲示板への書き込みをする主人公を描く場合、現代の情報社会が実存に食い込んでいるはずだ。
 現代社会において、人間はもはや社会的なものにすっかり包囲されてしまっていて、社会的なものは人間の実存に食い込んで離れようとしない。そのような実存から主体的に発される文学は必ず政治的色彩を帯びているのである。かといって、政治が実存を支配しているわけではなく、あくまで実存は現代的な主体性や自律性を獲得しながら、自らの表現方法を模索しつつ、それでもその表現には政治的なモメントが入らざるを得ない。これが現代の政治と文学の在り方だと思う。