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能動性格差

 現代は多様性の時代だといわれる。多様性は社会福祉の観点と個人の人権の観点から説明できる。旧来の同質的な社会においては、同質でない人々を排除するという暴力が働いていた。そのような社会的排除を受ける人を少なくするという福祉の観点から、多様な人々を社会に包摂しようという動きになった。一方、個を尊重する戦後教育により多様な個性を肯定するようになり、結果として多様な個性を温存したままの若者が急増した。
 このような多様性の時代というものは、別の角度から見ると人々がバラバラになってしまった時代にも見える。それまで同質性の中で共感しあってなあなあで生きてきた日本人が、それぞれの個性で反発し合い、共感し合う土台を失っているかのようにも思える。
 だが、かつての同質性というものは受動的な同質性であった。それは上の世代からしつけられたり押し付けられたりした価値観による同質性であったのだ。現代ではむしろ能動的な同質性が育ちつつあると思われる。つまり、多様な趣味や傾向を持った人々が情報メディアでつながり合い、自らの意思で交流を深めていくという同質性である。
 ここで言う能動性とは社交性などとは違った意味合いである。全く社交的でない人でも今はウェブ上で積極的に仲間を作ることができる。現代の能動性とは自らの持っている資本のようなものであり、引き出しの多さのようなものである。引き出しの多い人間ほど多くの人と話を合わせることができ、より多くの社会関係資本を獲得することができるのだ。
 だが、だれもが能動性を備えているわけではない。昔ながらの受動的なつながり、均質的なつながりを好む人も多いだろう。また、均質的なつながりを嫌いながらも、能動的なつながりを作るリテラシーが備わっていない人も多いはずだ。引き出しの少ない人はそもそも人と対話するきっかけをつかめない。
 これからの多様性の時代に必要となる能動性を育てるため、教育も社会関係資本の形成へ力点を置き、より豊かな社会関係を構築し満たされた生活を送れるようにするべきである。