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内田博文『法に触れた少年の未来のために』(みすず書房)

 

法に触れた少年の未来のために

法に触れた少年の未来のために

 

  近年の触法少年をめぐる状況を憂慮して書かれた本。

 子どもの権利は国際法で広く保障されているにもかかわらず、近年日本では刑罰国家への転換による少年への対処の厳格化が進んでいる。非行少年は統計的に増加していないにもかかわらず、少年非行の凶悪性が強調され、厳罰化が進む。少年への保護処分も福祉の意味合いより保安処分の意味合いが強くなっている。

 ところが、非行少年は家庭環境や社会環境によって生み出されることが多く、そのような非行少年を重く処罰するのは非行少年の人権を侵害する行為である。社会が非行少年を生み出しているのだから、まず社会を改善すべきである。例えば少年が自己肯定感を持てる社会を作るなど。

 本書は少年法の専門書であるが、触法少年をめぐる近年の動向が網羅的に詳細的に記述されており、とても勉強になった。触法少年をめぐる制度や社会の動き、NPOの活動など記述は多岐にわたっている。立法論というのはとても難しく、内田はみずからの立場を明確に示しているわけであるが、もちろん反論も根強くあるだろう。だが、内田にはこの立場を維持してもらいたい。こちらのサイドがいなくなったら議論が貧困化してしまう。