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岡田温司『天使とは何か』(中公新書)

 

  天使というものの文化表象的な多義性に着目した本。

 天使は純キリスト教的な神の使者であるだけでなく、ギリシア・ローマの神々やアニミズム信仰と混淆して表象されてきた。また、天使とキリストも重なる点が多く、様々なテクストで天使とキリストは混同されている。そして、悪魔もまた天使が自由意思により堕天して生まれたものであるし、現代に近づくに従い、天使は純キリスト教的な教条的な役割を超えて、芸術家の自由な想像力に従い変幻している。

 本書はキリスト教神学の本ではなく、むしろ表象文化論の書物である。キリスト教神学で天使がどのようなものかはさておき、実際に天使は人々にどのように扱われどのように表現されたかを論じている。天使の本当の姿は教条的なものでもなければ表象的なものでもないだろう。天使はもはや定義しがたい多様な存在なのだ。