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鈴木透『食の実験場 アメリカ』(中公新書)

 

  食の観点から見たアメリカ文化史。

 アメリカでは、先住民の食文化と入植民の食文化が混淆したり、移民の食文化が混淆したりして、異種混淆的な食文化が形成されてきた。アメリカ大陸土着のカボチャやトマトなどの食材と、ヨーロッパのパンや肉などが混ざったりした。それゆえ、アメリカではローカル、エスニックでありながらグローバルな食文化が形成される。

 一方、時間と手間の節約の観点、効率化の観点によりマクドナルドに代表されるファーストフードが発達し、貧困層が安いファーストフードに依存して健康問題を発生させている。ファーストフードは合理的なものであったが、従業員を搾取したり資本主義にどっぷりとつかった社会的に問題の多いものだった。それに対抗するように、フードジャスティスが叫ばれそれが実践されるようになった。環境に負荷をかけず、人にも優しい食文化や農業を作り出す活動だ。小さい農業共同体でのコミュニティ的食文化への回帰も進んでいる。

 本書はアメリカの食文化を題材にしながら、アメリカ文化一般・アメリカ歴史一般についての洞察を与え、アメリカの今後進むべき道についても提言をしている大変興味深い本である。アメリカの食にはアメリカの来し方・行く末が非常によく反映されている。食について学びながらアメリカそのものについて学べる本である。