社会科学読書ブログ

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なぜ本を読むのか

 読書をする理由は多岐にわたる。まず筆頭に挙げられるのが読書の快楽である。本は知的遊戯の空間であり、本を読むことは知的遊戯の快楽に身を浸すことに他ならない。そこには思想があり感性があり認識があり物語があり、どれも人の脳髄に快楽をもたらすものだ。読書は快いものである、それ故に読書するのだ。
 読書の快楽の中で最も大きいものはブレイクスルーの快楽であろう。自分がそれまで思いもしなかったアイディアが本の中に示されることで世界の見方が大きく変わるということ。そうでなくても、少しずつ世界に対する視野が広がり自分の認識の限界が突き破られるということ。このブレイクスルーが非常に快い。
 文学作品の鑑賞の場合には芸術鑑賞の楽しみがある。一つの美しい作品をめでるということ。そこには起伏があり手触りがあり匂いがある。美しいものに接するということの端的な快楽がそこにはある。
 だがもちろん読書は快楽だけで語れるものでもない。読書をするということは、自らの世界に対する所有を強化することでもある。人はせいぜい物理的にはみずからの所有物しか所有できない。だが、世界の認識や理論化を通じて、世界の処分可能性が高まっていく。もちろん人は世界を処分することはできないが、世界を思うように動かす可能性を世界をより深く知ることによって獲得できるのである。
 読書は世界を理論化すると同時に世界に複雑なひだを作り出す。読書によって得られる世界像は読書のたびごとに美しく彫刻されていき、人の知的体系は少しずつ完成に近づいていく。読書によって人は世界を自らの作品として彫刻していき、それに対する所有の可能性を強化していく。読書とは人が世界を所有しようとする絶え間ない努力の過程なのである。