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竹内整一『日本人は「やさしい」のか』(ちくま新書)

 

日本人は「やさしい」のか―日本精神史入門 (ちくま新書)

日本人は「やさしい」のか―日本精神史入門 (ちくま新書)

 

 「あの人は優しいから」「優しい人が好き」など、私たち日本人は頻繁に「やさしい」という言葉を使う。ところが、ではやさしさとはいったい何だろうと問われると途端に答えに窮するのではないだろうか。やさしさはあまりにも自明な意味を持っているため、取り立てて定義する必要性を感じないからだ。だがそこに切り込んでいってやさしさの在り方を見極めていくのが哲学の役割だ。

 竹内整一の『日本人は「やさしい」のか』は、やさしいという言葉の日本における歴史的変遷をたどりつつ、その本来の意味に迫っている。やさしさのもともとの意味は、他人に対して恥じたり萎縮したりするところからきている。だから、やさしさとは、誠実さや正直さのように対象とのホットな関係を築く倫理ではなく、むしろ相手と適切な距離を取り相手を傷つけないというクールな倫理を体現しているのである。

 確かに、やさしい人というのはどこまでも他人の領域に踏み込んでくる人ではない。どこまでも他人に尽くす人でもない。それよりも、他人に対して繊細な気配りをして他人のデリケートな領域を侵さないよう遠慮している人である。

 とすると、恋愛においてやさしさが求められるのもわかる気がする。特に結婚して互いに共同生活を送る段になるとやさしさは必須である。他人と熱くぶつかり合う誠実さより、他人と上手に距離を取り他人を上手に配慮するやさしさの方が共に生きていく上では重要なのだ。やさしさとは何よりも共生の倫理ではないか。