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黒川伊保子『夫のトリセツ』(講談社+α新書)

 

夫のトリセツ (講談社+α新書)

夫のトリセツ (講談社+α新書)

 

 夫婦の間ではディスコミュニケーションがしばしば生じる。妻の側ではとにかくプロセスの細部を聞いて共感してほしいのに、夫の側は単刀直入に結論を出してしまう。「だったらこうしたら」「それはお前が悪い」。もしくは、妻が細かいおしゃべりをしているのを夫は上の空で聞いていて、全然反応してくれない。

 これは、男の脳と女の脳の造りの違いから生じるのである。男性脳は目標志向型であり、結論を求める生存戦略をとる。それに対して女性脳はプロセス志向型であり、共感による生存戦略をとる。女性脳がプロセス志向で共感を求めておしゃべりをしていても、男性脳は論理的に結論を下してしまう。また、男性脳は沈黙でストレス解消をするのに対し、女性脳はおしゃべりでストレス解消する。だから、女性がストレス解消のためおしゃべりをしていても、沈黙を求める男性はよく反応してくれないのである。

 黒川伊保子『夫のトリセツ』には、このような男性脳と女性脳の違いによる夫婦間のディスコミュニケーションが描かれている。黒川は日常的な男女間の齟齬を科学的見地より説得的に説明している点で優れている。この齟齬に対して、女性の側からの歩み寄りの仕方についても書いている。例えば、このように男性脳と女性脳は相補的な関係にあるのだから、互いに補い合う、苦手な部分は相手に任せて互いに相手をかけがえのない存在にする。そういう努力をすることによって夫婦の危機は乗り越え可能である。

 違う脳の構造を持った男女が共同生活をするということはなかなか危険であるが学びに満ちたものでもある。男性脳と女性脳は造りが違っても、得意分野が違うだけであって、全般的な能力は初めから備わっているため、男性はより女性的に、女性はより男性的になることで齟齬を回避できる。初めから違うもの同士でも歩み寄ることは可能である。