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福井康貴『歴史のなかの大卒労働市場』(勁草書房)

 

歴史のなかの大卒労働市場: 就職・採用の経済社会学

歴史のなかの大卒労働市場: 就職・採用の経済社会学

 

  皆が皆リクルートスーツに身を包み、個性を出さない身だしなみをして、ひたすら自己分析を繰り返し、採用面接で希望先企業との相性を図る。現代の就活は概ねこのような形をとっているが、就活には実は様々な歴史的変遷があった。

 福井康貴『歴史のなかの大卒労働市場』によると、就活とは、応募者がシグナリング(情報を持つものが情報を持たないものに品質を伝える)を行い、企業がスクリーニング(情報を持たないものが情報を持つものから情報を引き出す)を行う社会的コミュニケーションの果てに、企業側が応募者の有能さを何らかの尺度で測って採用の可否を決定する営みである。

 この社会的コミュニケーションの中で、かつては紹介や学校成績が重視されたこともあった。また、学歴や人物が重視されたこともあったし、近年では主に応募者と企業との相性が重視されている。企業側が応募者を採用するにあたっての根拠が、「この人からの紹介なら能力があるだろう」というものから、「この成績なら能力があるだろう」「この学歴なら能力があるだろう」と移っていき、その次には、それより組織をうまく回すには人物が重要だ、果てには、結局うちの会社の社風に合っているのが一番だ、と変わってきている。

 時代と共に採用の根拠は異なっているが、就活が情報の非対称性のもと、応募者の情報を企業がいかに取得して判断の基準にするかという営みであることは変わっていない。応募者は自分の情報をシグナリングし、企業は応募者の情報をスクリーニングする。あとは時代と社風に応じた価値基準で採否を決すればよい。就活の基本的な構造はこのような形をしている。