社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

2022-01-01から1年間の記事一覧

上野正道『ジョン・デューイ』(岩波新書)

ジョン・デューイ 民主主義と教育の哲学 (岩波新書) 作者:上野 正道 岩波書店 Amazon プラグマティストで進歩主義思想家であるジョン・デューイの入門書。デューイは主体・客体などといった二元論を克服し、相互の信頼・正義に向けて多様な市民の権利と自由…

牧野雅彦『ハンナ・アレント』(講談社現代新書)

今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢 (講談社現代新書) 作者:牧野 雅彦,ハンナ・アレント 講談社 Amazon 全体主義に対する思想的な抵抗の理論を唱えたハンナ・アレントの入門書。人間は行為によって無数の関係の網の目を作り出し、それが「…

斎藤幸平『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』

ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた (角川学芸出版単行本) 作者:斎藤 幸平 KADOKAWA Amazon 現代社会のフィールドワーク。『人新世の資本論』がベストセラーになった理論家の斎藤幸平が、現実に社会問題の現場に行き、現場を体験するとい…

佐々木実『宇沢弘文』(講談社現代新書)

今を生きる思想 宇沢弘文 新たなる資本主義の道を求めて (講談社現代新書100) 作者:佐々木実 講談社 Amazon 日本で一番ノーベル経済賞に近いと言われた宇沢弘文の思想と生涯。宇沢は数理経済学者として米国で名前をはせるも、ベトナム戦争に反対して日本…

辻仁成『パリの空の下で、息子とぼくの3000日』(マガジンハウス)

パリの空の下で、息子とぼくの3000日 作者:辻仁成 マガジンハウス Amazon 作家の辻仁成が、思春期の息子と暮らしたパリでの生活をつづったエッセイである。本書のキーワードは「じーん」と「かっちーん」である。息子の成長ぶりや何気ない一言に感動する一方…

アンデシュ・ハンセン『運動脳』(サンマーク出版)

運動脳 作者:アンデシュ・ハンセン Amazon 運動することで脳が活性化することを数々の実験に基づいて立証している。速めのウォーキングやラニングを継続的に行うだけで、人間の脳は活性化する。運動は脳をストレスから守り、脳の集中力を高め、うつの回復に…

東畑開人『聞く技術 聞いてもらう技術』(ちくま新書)

聞く技術 聞いてもらう技術 (ちくま新書) 作者:東畑開人 筑摩書房 Amazon 心理療法士の観点からの現代社会への処方箋。現代では、「聞くの不全」が起こっている。社会全体が余裕を失っており、困窮している人たちが声を上げているが一向にそれがきちんと聞か…

超勤縮減

今や人口に膾炙したワークライフバランスという言葉。これは、仕事だけの人生を送るのではなく、仕事以外の生活も充実させる趣旨の施策である。結局、仕事の効率を上げるためには職員が健康で活力にあふれているのが一番である。残業は職員の健康や活力を奪…

エマニュエル・トッド『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)

第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書) 作者:エマニュエル・トッド 文藝春秋 Amazon ウクライナ戦争の分析を通じて見えてくる現代の世界地図。そもそもロシアは父権性の強い社会であり、権威主義体制になじむが、ウクライナは父権性が弱く、権威主義…

梅田孝太『ショーペンハウアー』(講談社現代新書)

今を生きる思想 ショーペンハウアー 欲望にまみれた世界を生き抜く (講談社現代新書100) 作者:梅田孝太,アルトゥール・ショーペンハウアー 講談社 Amazon ショーペンハウアーのコンパクトな入門書。世界には二つの側面がある。表象としての世界と意志とし…

アンジェラ・ダックワース『やり抜く力』(ダイヤモンド社)

やり抜く力 作者:アンジェラ・ダックワース ダイヤモンド社 Amazon 努力の重要性を訴えている本。人生の成功は「やり抜く力」で決まる。知能や成績が良くても、やり抜く力がないと成果を上げることができない。才能×努力=スキル、スキル×努力=成果、である…

東畑開人『居るのはつらいよ』(医学書院)

居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく) 作者:東畑 開人 医学書院 Amazon デイケア施設のフィールドワーク。単なる就労記や体験記と異なるのは、著者が批評的視座を持つ理論的知性であり、現場で実際に働くことにより、そ…

私たちは疲れている

一定以上勉強している人なら、多くが「自律した個人」として生きようと思っているだろう。そして、「成熟した大人」として生きようと思っているだろう。だが、日々労働しながら生きていると、このよう自律や成熟に疲労を感じることがないだろうか。 何か職場…

将基面貴巳『愛国の起源』(ちくま新書)

愛国の起源: パトリオティズムはなぜ保守思想となったのか (ちくま新書, 1658) 作者:将基面 貴巳 筑摩書房 Amazon 日本語の「愛国」の語源となったパトリオティズムについて歴史的に解読している本。パトリオティズムには、自国への愛という狭義の愛国の側面…

諸富祥彦『「本当の大人」になるための心理学』(集英社新書)

「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟 (集英社新書) 作者:諸富祥彦 集英社 Amazon ヴィクトール・フランクルの研究者による人間の成熟論。成熟した人間は単独者として生きている。自立して、他者からの承認を得なくとも自らを自然に肯…

山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ (光文社新書) 作者:山口 周 光文社 Amazon 経営においてアートの重要性が増していることを指摘している本。経営はアートとサイエンスとクラフトからなっている。ア…

人生充実しているマウンティング

社会人になって気づいたことがある。それは、一定以上の上の世代というのは「俺の方が苦労している」「俺の方が忙しい」というマウンティングをしてくるということだ。不幸自慢というのは子どもがやることであって、私などは二十歳くらいを境にそんな子供じ…

ルーズさに耐える能力

さて、昨今のご時世では世の中はどんどんルーズになっているように思える。みんながみんなギチギチに頑張ってサービス向上していこうという時代はもう終わった。郵便物の配達が遅くなったことに象徴されるように、いま、世の中はかつての高度経済成長期とは…

千葉雅也『現代思想入門』(講談社現代新書)

現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon 著者なりに解釈した現代思想を人生に接続しようとする本。デリダは「概念の脱構築」を行った。健康/病気など片方が優位にあるような対立を、劣位の方に味方するようなロジックを用いて、対立す…

将基面貴巳『従順さのどこがいけないのか』(ちくまプリマー新書)

従順さのどこがいけないのか (ちくまプリマー新書) 作者:将基面 貴巳 筑摩書房 Amazon わかりやすいがすごく根本的で重要なことを言っている本。従順であることは一種の美徳のように思われている節があるが、実際は従順であることには様々な問題がある。例え…

人不足は何が困るか

現在日本の様々な職場で人不足が深刻である。職場の人員不足により、職場に何が起きて、職員に何をもたらすか整理してみたい。 私が近ごろ配属された部署では、係長を含め4人定員だがそのうち2人病休という状態である。例えばそのような実際の経験をもとに…

上村紀夫『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』(クロスメディア・パブリッシング)

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする? 作者:上村紀夫 クロスメディア・パブリッシング(インプレス) Amazon 経営サイドから離職を防ぐ方法について書かれた本。社員が求めるものと会社が与えるものの差がマイナス感情を生み出す。社員が求…

霜山徳爾『人間の限界』(岩波新書)

人間の限界 (岩波新書 青版 917) 作者:霜山 徳爾 岩波書店 Amazon 碩学による人間に関する滋味あふれるエッセイ。人間とはどういう存在であるかについて、味わう、遊ぶ、賭ける、まなざし、手、足、めまいなど多角的な切り口から迫っていく。今となっては特…

本村凌二『剣闘士』(中公文庫)

剣闘士 血と汗のローマ社会史 (中公文庫) 作者:本村凌二 中央公論新社 Amazon 古代ローマにあった剣闘士という職業について概観できる本。剣闘士競技はそもそも父祖の弔いのための供犠という位置づけだったが、だんだん選挙に利用されたりして、最終的には世…

オズワルド・シュミッツ『人新世の科学』(岩波新書)

人新世の科学: ニュー・エコロジーがひらく地平 (岩波新書 新赤版 1922) 作者:オズワルド・シュミッツ 岩波書店 Amazon 新しい時代の生態学について紹介している本。生態学とは、生物間の捕食・被捕食の関係やそこにおける物質の代謝や分解、物質の流れなど…

ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(新潮文庫) 作者:ブレイディみかこ 新潮社 Amazon イギリス在住の著者は、アイルランド人と結婚して混血の子どもを育てている。本書はイギリスの学校に通う息子との日常をつづったノンフィクションである。学校…

中村佑子『マザリング』(集英社)

マザリング 現代の母なる場所 (集英社文芸単行本) 作者:中村佑子 集英社 Amazon 母であることの現象学。子を産むときの圧倒的な体験はあまり言語化されてこなかった。本書は、母であることについて多角的に言語化することを試みている。子を産んだ時、自分と…

ブレイディみかこ『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』(岩波現代文庫)

ヨーロッパ・コーリング・リターンズ: 社会・政治時評クロニクル 2014-2021 (岩波現代文庫 社会 330) 作者:ブレイディ みかこ 岩波書店 Amazon 本書は、著者がYahooなどの各媒体に発表した短い時評を年代別に編んだものである。扱っているのは主にイギリスの…

勤務時間中のスマホ

かつては、勤務時間中に携帯電話をいじっていると職務専念義務に違反するとして懲戒処分を受ける可能性すらあった。だが、スマホの高機能化により、勤務時間中にスマホを操作することが必ずしも職務専念義務に違反することにはならなくなっているのが近年の…

育てることで育つ

娘が産まれてから間もなく300日が経とうとしている。私はこれまで育児に携わってきたわけだが、まさに娘を育てることにより私自身も育っていると思う。 まずは人生の豊饒化である。一つには自らの血を引いた人間が一人生まれ出たということにかかわる喜び…