社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

法哲学

適応

今日、稲刈りの手伝いをしていて、「農作業には法律は全く関係ないなあ」とのんきなことを考えていたのですが、実はそうでもないのではないかと気づきました。 稲刈りをする場合、米を収穫するという目的の実現のため、稲の生え具合に合わせて機械を走らせま…

形式と実質

法律学のコンテクストでは、よく形式論と実質論が峻別されている。だがこの形式と実質の違いとは一体どんなものなのか。 たとえば、特定の論点に対する学説について、「形式的根拠―実質的根拠」という対立がある。また、証拠力について、「形式的証拠力―実質…

規則功利主義

功利主義とは、最大多数の最大幸福こそが善だとする立場である。だが、最大多数の最大幸福を、一人一人の行為ごとに、それぞれの文脈において判断するのは難しい。一人一人の人間が行動を起こそうとするときに、善悪を判断する基準はもっと明確に定まってい…

存在の追認

民法113条1項は、無権代理人の法律行為を原則無効とし、本人の追認があった場合には効力を発生させる。法律行為はそれだけで無条件に法律効果を発生させるわけでなく、無効事由がある場合には、利害関係人はその効果の発生を阻止できる。 だが事実行為は…

危害原則の反映

危害原則とは、他人に迷惑をかけなければ何をやっても自由だ、という原則である。この原則が法律の規定の中に様々な形をとって現われる。(1)事実行為として他人の利益を侵害すれば、サンクションが与えられる。(2)法律行為・訴訟行為として他人の利益…

長尾龍一『法哲学入門』

法哲学入門 (講談社学術文庫)作者: 長尾龍一出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/01/11メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 15回この商品を含むブログ (16件) を見る 法律学と哲学の両方とも知らない人は読むべきかもしれないが、両方知っている人にとっては…

ベルクソンと危険・結果無価値

ベルクソンは、世界は常に新しく創造されていくと考えた。だから、可能性というものは事前的には存在しない。結果が発生して初めて回顧的にあの時可能性があったと判断されるに過ぎない。つまり、実在性が可能性に論理的に先行するのである。世界が常に更新…

義務の発生根拠

義務が発生するためには、(1)ある人が特定の行為をとることが期待可能か、(2)その行為が目標とする利益を因果的に強く惹起しうるか、という二つの基準をクリアーしなければならないような気がする。 例えば、子供が川でおぼれそうになっているときに、…

法律学と自然科学

自然科学は、理想的な状態を作り出し、厳密な手続に従って実験をすることでデータを集める。集まったデータという事実をもとに、その背後にある法則を導き出す。 この一連の流れが、法システムにおける訴訟手続に似ていないだろうか。法廷という理想化された…

法の内面化

長尾龍一『法哲学入門』によると、ラートブルフやカントは法の「外面性説」をとったらしい。つまり、道徳は個人の内面を拘束し、法は外面を拘束する、という説である。法は外面しか拘束しないのだから、人間は内面において必ずしも順法精神を持っている必要…

「ひかりごけ」問題再論

以前、id:analysis_nz:20090520において、「被害者でも加害者でもない裁判官がなぜ加害者を裁けるのか」という問題を提起したが、これがなぜ問題になるのかが少し分かってきた。 この問題に対しては、「加害者は被害者に不利益を与えた以上、公平の観点から…

過度の義務履行

義務を履行するのに、履行しすぎることはないようにも思える。例えばある彫刻家が彫刻を作る請負債務を負っている場合、どれだけ上手に作っても上手に作りすぎることはないと思われる。だが、それは、問題になっている義務の履行が二当事者間の閉ざされた空…

人がそこに入り込むことによって法的な権利義務が付着する、そのような時空間がある。それを法的な「場」と呼ぼう。場には普遍的な場と特殊的な場がある。 例えば刑法によって作られる場は、基本的に日本国内に限定されるが、基本的に日本国民を生まれたとき…

権利・義務の抵触

今、ある人に二つの権利があるが、この二つの権利は互いに矛盾しているとしよう。例えば、契約を締結する権利としない権利。契約を締結することで、取引行為を通して収益を上げるという利益が実現され、契約を締結しないことで、取引に伴うコスト・リスクを…

裁判と真理

裁判官は当事者の主張する事実が真実であると心証を形成したときに、その事実に基づいた法律効果の発生を容認する。だが、ここで言われている真実とはいったいなんであろうか。 真理が何であるかについては以下の三説がある。(1)明証説、(2)対応説、(…

利益を与えないこと

利益を与えないということは、不利益を与えるということになるのだろうか。それとも単に何もしないということになるのだろうか。(1)利益を望んでいる主体が利益を得る可能性がない場合 例えば、健常者が障害者年金を望んでいる場合。健常者である以上、障…

行為と情報

行為をするためには情報を得なければならない。情報は、(1)物事の存在、(2)物事の内容、から構成されるが、これらは不可分であろう。 さて、法システムの様々な場面で、(1)情報提供行為、(2)情報に基づいた行為、がなされるわけだが、それぞれに…

上からの基礎付け

西洋哲学の伝統として、確実な真理を基礎として、そこから演繹的に学問の体系を基礎付けていく、という方法論がある。これを下からの基礎付けと呼ぼう。ユークリッド幾何学がその典型で、いくつかの公理を前提に、論理的に諸定理を導き出していくのである。 …

ヤクザの人間性

もうひとつ映画の話を。私はヤクザ映画が好きで、昔はよく見ていたのだが、その中でも異色の映画があった。それはヤクザの親分の法廷闘争を描いたものであり、その親分によると、暴対法による規制強化は、ヤクザの人間性を否定している、とのことだ。 人々の…

「ひかりごけ」問題

武田泰淳の小説に「ひかりごけ」というものがある。私はこれが映画化されたのを観た。これは、厳寒の地に閉じ込められた船長と船員がいて、ひとりずつ船員が死んでいくのだが、船長は死んだ船員の肉を食べて生き残る、という筋のものだ。この船長が裁判にか…

道具的理性

ホルクハイマーは、近代において理性が「道具化」されたと批判したらしい。理性が、自然を技術的に支配し、社会の合理化を推し進めるための道具に成り下がってしまった、というのである。それによって、教養や人間性が失われてしまったことを批判しているの…

リーガルマインドの体系化

法律学の基本書を読んでいると、法解釈における学説の対立において、著者の一定の立場が示される。その際に、特に根拠もなく、この説が妥当である、みたいな書きぶりで済ましてあるのを目にすることがある。妥当性の根拠について説明がなされている場合もあ…

法と学説

取消訴訟を提起する際に主張する違法性として、信義則などの法の一般原則違反を主張することがある。違法と判断するためには、問題となっている処分が何らかの法に違反していなければならないが、ここで言う「法」とは法律に限らず広い意味での法である。 と…

公益と私益

公益と私益が分離されることにずっと気味の悪さを感じていた。公益は私益に還元することができないのだろうか。例えば文化の発達という公益は、個々人の生活の水準が上がるという私益に還元されるのではないか。 思うに、公益とは希釈された私益である。希釈…

差し止め

差し止めの根拠には二つあるような気がする。(1)独占を維持するためと(2)人間の尊厳を維持するため。 所有権侵害に対して、損害賠償しか認められないとなると、侵害者は賠償金を払う限り所有権を侵害し続けることができる。これでは所有権の独占的性格…

国民の信頼

立法・司法・行政いずれの国家機関であっても、それが国民の信頼を得るためには二つのファクターが必要だと思う。 (1)実際に公正なことをやっていること (2)何をやっているか国民に正確に伝わること 不公正なことをやっていることが国民に伝われば、国…

考慮要素

裁判例において、事実がある要件に該当するかの判断のレベルで、様々な考慮要素を挙げて、それらを総合考量して結論を出すというやり方がよく用いられる。例えば、任意捜査の適法性に関しては、当該捜査手段を用いることの必要性・緊急性・相当性を考慮し、…

二重の基準

法律効果を発生させるためには、事実が二つの基準をクリアしなければならない。それは、事実が、(1)すべての構成要件を満たすかという基準と、(2)そもそも特定の構成要件に該当するかという基準である。 学説は、(1)のレベルでは、法定されていない…

権利濫用

権利の濫用ですぐ損害賠償が問題になったりするが、そもそも権利の濫用の直接の帰結は権利行使の無効ではないのだろうか。権利というのは形式的・画一的・抽象的に設定されるが、その具体的な行使の現場で、権利の与えられた趣旨に反するような権利行使がな…

行為

行為というものは、それに関係する様々な人や社会に影響を及ぼす。そして、それぞれの人や社会にとってそれぞれの意味を持つ。例えば警察官が被疑者を現行犯逮捕するとき、現行犯逮捕という行為は、被疑者にとっては身体の自由の侵害であり、警察官にとって…