社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

宇佐見英治『石の夢』(筑摩書房)

石の夢 (宇佐見英治自選随筆集) 作者:宇佐見 英治 筑摩書房 Amazon 宇佐見英治の詩人としての面目躍如たるエッセイ集である。石に対するみずみずしい感性、「石を食べたい」と感じるような飛躍した感性、そこに宇佐見が全き「外部」と接触しまさに「創造」を…

斎藤環『「自傷的自己愛」の精神分析』(角川新書)

「自傷的自己愛」の精神分析 (角川新書) 作者:斎藤 環 KADOKAWA Amazon 自分のことを言葉で罵倒する癖のある人が相当数いる。そういう人たちがどのような精神構造でそのような行為を行っているかについて分析している。そういう人たちは「自傷的自己愛」を抱…

魂の断捨離

結構前から断捨離がはやっている。本当に大事なものだけ残してあとは捨てていきましょうという考えである。これはモノだけでなくて、自分の考え方についても当てはまるのではないか。要するに、必要最低限のこだわりだけ残して、余計なこだわりは捨てていこ…

カリド・コーザー『移民をどう考えるか』(勁草書房)

移民をどう考えるか: グローバルに学ぶ入門書 作者:カリド・コーザー 勁草書房 Amazon 移民についてコンパクトにエッセンスをまとめて論じている本。移民に関する定義と概念を明らかにし、最新のエビデンスに基づき移民に関する諸問題に取り組むべきである。…

チェノウェス『市民的抵抗』(白水社)

市民的抵抗:非暴力が社会を変える 作者:エリカ・チェノウェス 白水社 Amazon 市民的抵抗とは、非暴力的な抵抗であるが、大きな政治的譲歩を勝ち取るうえで武装闘争よりも有効である。市民的抵抗とは、デモであったりボイコットであったりストライキであった…

郡司ペギオ幸夫『創造性はどこからやってくるか』(ちくま新書)

創造性はどこからやってくるか ――天然表現の世界 (ちくま新書) 作者:郡司ペギオ幸夫 筑摩書房 Amazon 独特な芸術創作論。一人一人が状況の中にあえて二項対立的なものを見出し、肯定的・否定的矛盾の共立を構想するとき、そこには外部が召喚され、全き外部と…

畑中章宏『宮本常一』(講談社現代新書)

今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる (講談社現代新書100) 作者:畑中章宏 講談社 Amazon 特異な歴史学の境位を開いた宮本常一についての紹介。宮本は時代的にも早いうちからフィールドワークの重要性に気付いていた。民俗学の系譜にありながら、…

明日香壽川『グリーン・ニューディール』(岩波新書)

グリーン・ニューディール 世界を動かすガバニング・アジェンダ (岩波新書) 作者:明日香 壽川 岩波書店 Amazon グリーン・ニューディールという世界的な動きについて解説している。再生可能エネルギーについてはコモディティ化が進んでおり、すでに多くの国…

櫛原克哉『メンタルクリニックの社会学』(青土社)

メンタルクリニックの社会学: 雑居する精神医療とこころを診てもらう人々 作者:櫛原克哉 青土社 Amazon メンタルクリニックの来歴や現状についてまとめた博士論文ベースの本。メンタルクリニックの患者は、自身の苦悩と向き合うとき、紆余曲折し、自分が本当…

中森弘樹『「死にたい」とつぶやく』(慶應義塾大学出版会)

「死にたい」とつぶやく 作者:中森弘樹 慶應義塾大学出版会 Amazon 座間9人殺害事件を思考の端緒に、親密圏における「死にたい」という発言の意味を考察している。家族や親しい友人といった親密圏においては、基本前提が「生きたい」という欲求であり、その…

村上靖彦『客観性の落とし穴』(ちくまプリマー新書)

客観性の落とし穴 (ちくまプリマー新書) 作者:村上靖彦 筑摩書房 Amazon 客観性を追い求めることで却って不可視化されるものに焦点を当てよ、という本。科学は、自然を数値化し、社会を数値化し、心を数値化した。それによりすべてが「モノ」化し、人々は数…

デューイ『民主主義と教育』(岩波文庫)

民主主義と教育 上 (岩波文庫) 作者:J. デューイ 岩波書店 Amazon 民主主義と教育 下 (岩波文庫) 作者:J. デューイ 岩波書店 Amazon デューイの教育論。本書の根本的な教育原理は、最も充実した生活こそ最も良い教育になるということである。我々の生活には…

斎藤環『母は娘の人生を支配する』(NHKブックス)

母は娘の人生を支配する なぜ「母殺し」は難しいのか NHKブックス 作者:斎藤 環 NHK出版 Amazon 「父殺し」は容易なのに「母殺し」が非常に困難であることについての解説。特に母と娘の関係について考察している。男性が「立場」を求めるのなら、女性は「…

桑瀬章二郎『ジャン=ジャック・ルソー』(講談社現代新書)

今を生きる思想 ジャン=ジャック・ルソー 「いま、ここ」を問いなおす (講談社現代新書) 作者:桑瀬 章二郎,ジャン=ジャック・ルソー 講談社 Amazon 常識を問い直す人としてのルソーの紹介。ルソーの思想は複数の知の領域にまたがっており、「政治」「自由」…

斎藤美奈子『出世と恋愛』(講談社現代新書)

出世と恋愛 近代文学で読む男と女 (講談社現代新書) 作者:斎藤美奈子 講談社 Amazon 近代文学を類型化して読み解く試み。近代日本の青春小説は、三つの要素からなっている。①主人公は地方から上京してきた青年である。②彼は都会的な女性に魅了される。③しか…

三谷はるよ『ACEサバイバー』(ちくま新書)

ACEサバイバー ――子ども期の逆境に苦しむ人々 (ちくま新書 1728) 作者:三谷 はるよ 筑摩書房 Amazon ACEとは、Adverse Childhood Experienceのことで、子ども時代の逆境的な体験のことを言う。ACEとして挙げられているものは、身体的虐待、心理的虐待…

玉手慎太郎『公衆衛生の倫理学』(筑摩選書)

公衆衛生の倫理学 ──国家は健康にどこまで介入すべきか (筑摩選書) 作者:玉手慎太郎 筑摩書房 Amazon 公衆衛生の倫理学について詳しく書かれている本。例えば肥満を防ごうなどといったように、政府の側からパターナリスティックに個人の健康について介入して…

平林敏彦『言葉たちに』(港の人)

言葉たちに 戦後詩私史 作者:平林 敏彦 港の人 Amazon 詩人平林敏彦の詩歴や交遊録をつづったもの。戦後詩壇において大きな存在感を持ちながら、30年間沈黙し、その後また詩作を再開した著者の来歴が記されている。また、戦後詩壇における様々な詩人との交…

バジョット『イギリス国制論』(岩波文庫)

イギリス国制論 (上) (岩波文庫 白 122-2) 作者:バジョット 岩波書店 Amazon イギリス国制論 (下) (岩波文庫 白 122-3) 作者:バジョット 岩波書店 Amazon イギリスの君主制及び議院内閣制の利点について詳しく述べている本。国制には尊厳的部分と実効的部分…

宇佐見英治『明るさの神秘』(みすず書房)

明るさの神秘 作者:宇佐見 英治 みすず書房 Amazon 主に宮沢賢治について書かれた批評的エッセイ集。宮沢賢治のいう心象スケッチは、時間の中で書かれたものではなく、時間そのものの相貌であり、この呼吸を言い表すために四次元世界・四次元芸術という言葉…

宇佐美・志村『一茎有情』(ちくま文庫)

一茎有情―対談と往復書簡 (ちくま文庫) 作者:英治, 宇佐見,ふくみ, 志村 筑摩書房 Amazon 詩人の宇佐見英治と染織家の志村ふくみの対談集である。詩人である宇佐美がその卓抜なる感性でもって志村の言葉を引き出していき、志村の染織家としての実践と、その…

河合隼雄『子どもの宇宙』(岩波新書)

子どもの宇宙 (岩波新書) 作者:河合 隼雄 岩波書店 Amazon 子どもは未熟な存在だと思われがちだが、実は内部に広大な宇宙を持っている。その宇宙において、秘密を軸にして、家族や動物、時空、老人、死、異性と関わっていく。そのような他者とのかかわりが子…

疲労との付き合い方

疲れたら休むしかない。そうしないと病気になってしまう。体調を崩す前にきちんと休むのが一番賢い疲れのマネジメントだ。疲れを無視して無理に働いたりすると様々な体調の悪化をもたらす。それは高血圧だったり、憂鬱だったり、腹痛だったり、頭痛だったり…

笠井亮平『第三の大国 インドの思考』(文春新書)

第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」 (文春新書) 作者:笠井 亮平 文藝春秋 Amazon 現代インドの国際関係について紹介している本。2023年にも人口は世界一になるとされ、経済規模でも世界五位、軍事費も世界三位となっていて…

富岡多恵子『表現の風景』(講談社)

表現の風景 (講談社文芸文庫) 作者:富岡多惠子 講談社 Amazon 詩人である富岡多恵子のエッセイ集。話題は多岐にわたり、障碍者用のダッチワイフの話から私小説の話、女性の地位の話などさまざまである。単純な表現論に終わるのではなく、社会問題へのまなざ…

鈴木大拙『東洋的な見方』(岩波文庫)

新編 東洋的な見方 (岩波文庫) 作者:鈴木 大拙 岩波書店 Amazon 鈴木大拙が晩年に執筆したエッセイ。西洋は主体と客体に二元化し、一般化・概念化・抽象化する。東洋は分割的知性を持たず、主客未分化であり、「光あれ」という刹那に触れようとする。また、…

鈴木志郎康『結局、極私的ラディカリズムなんだ』(書肆山田)

結局、極私的ラディカリズムなんだ―鈴木志郎康表現論エッセイ集 (Le livre de luciole) 作者:鈴木志郎康 書肆山田 Amazon 主に個人映画について紹介しているエッセイ集。「個人映画」とは、映画会社などの資本により制作されるのではなく、個人があたかも詩…

戸谷洋志『友情を哲学する』(光文社新書)

友情を哲学する~七人の哲学者たちの友情観~ (光文社新書) 作者:戸谷 洋志 光文社 Amazon 友情とは何かについて様々な哲学者の見解を紹介している。アリストテレスは友情を自律的な個人の間の愛の関係としてとらえた。カントは友情を、自分の欲求ではなく道…

あるサラリーマンの一日

朝は大体2時か3時くらいに目が覚める。それから、出勤のために家を出る5時半まで、本を読んだり、文章を書いたり、スマホで情報をチェックしたり、スマホゲームをしたり、音楽を聴いたり、朝食を食べたりして過ごす。ゴミの日にはゴミ出しをする。いつも…

関口洋平『「イクメン」を疑え!』(集英社新書)

「イクメン」を疑え! (集英社新書) 作者:関口洋平 集英社 Amazon イクメンを称揚することの問題点について、アメリカ映画をもとに紐解いていく本。男性の育児参加が進むのは喜ばしいことだが、イクメンの表象はしばしば「男はつらいよ」「男性が被害者」と…