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法の関知しない領域

 ケルゼンによると、法とは違反行為に対して制裁を与えることで一定の効果を生み出す社会的技術であり、このような違法行為には法の規定するこのような強制行為がなされねばならない、といった法命題により記述される。これは何もケルゼンの純粋法学の枠組みの中でのみ妥当する考え方ではなく、法の強制的側面についてはおおむねそのように言い表せると思う。

 だが、法は、制裁を規定する法規範があるにもかかわらず、国民がなぜ法を犯すのか、どのくらいの確率で法を犯すのか、について関知しない。また、制裁を受けた国民がどのような心理的衝撃を受けるか、どのような社会的な制裁を受けるのか、について関知しない。

 法は、いわば、様々なものが錯綜する広大な領域にぽつんとおかれたシンプルな鉄パイプのようなものであり、要件を満たすものを取り入れて制裁を付けて放り出す、機械のようなものである。それを取り巻く複雑で豊かな領域について、法それ自体は特に関わろうとしない。もちろん立法機関や行政府などは外側の領域と積極的に交渉を持つわけだが。