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強制処分の限界

刑訴189条2項 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。

こんな感じで捜査が始まるわけだが、捜査には任意捜査と強制捜査があり、強制捜査には法律の定めが必要である(197条1項但書)。任意捜査はどんな場合でも許容されるわけでなく、必要性・緊急性・相当性が必要であるが、強制処分はどうだろうか。まず、令状主義の要請(憲法33条、35条1項)から、一定の手続的な規制を受ける。だが、法定されかつ令状が発布されればどんな強制処分でも許容されるのだろうか。

 強制処分の限界については、(1)強制採尿についての最決昭55・10・23、(2)電話検証についての最決平11・12・16 が参考になる。
 (1)では、強制処分としての強制採尿は、捜索差押として、「被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべき」とされている。
 つまり、被疑事件が全然重大でなかったりしたら、強制採尿は行えない。捜索差押が強制処分として法定されていて、条件付の捜索差押令状が発布されたとしても。
 (2)では、強制処分としての電話検証は、検証として、「重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむをえない」ときに許容される。
 ここでは、必要性・相当性が考慮されていて、任意捜査の限界論に類似する。
 以上の判例は、典型的な強制処分類型に当てはまりにくく、かつ対象者の利益を強く侵害する類型の処分についてのものであり、その観点から当該類型の強制処分の許容性を厳格に解したとも考えられる。だが私には、一般に強制処分といっても、「基本的人権の保障」(1条)の観点から、法定され令状さえあれば何でも許されるというわけではないことを示唆していると思われる。