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情報提供義務

 契約当事者間に情報収集力・情報分析力において格差がある場合、契約締結に対して当事者一方から他方へと情報を提供する義務が課せられることがある。この根拠として、情報劣位者の契約自由・自己決定権の保護、情報優位者に対する社会の信頼が挙げられる。だが、情報劣位者は、たとえ限られた情報しか持たない状態であっても、自らの意思に基づいて契約したという意味では完全に自由なのではないだろうか。情報提供義務違反が問題になるケースにおいて、なぜ情報劣位者の契約自由が害されたといえるのだろうか。

 情報優位者の情報提供義務違反にもとづいて、情報劣位者が損害賠償や契約無効を主張する場合、いったいどんなことが起こっているのだろうか。ここで、刑法学の責任論が参考になる。非決定論に基づけば、行為者は犯罪行為以外の行為ができたにもかかわらず敢えて犯罪行為を行ったときに責任が問われる。逆に言えば、他行為可能性(犯罪行為以外の行為をする可能性)がない場合には行為者に責任は問えないのである。この他行為可能性こそが自由の本質ではないだろうか。行為者は自由に犯罪を行ったときに責任が問われ、自由がない状態で犯罪を行ったら責任は減少する。

 情報劣位者が、より多くの情報を得ていたならば契約を結ばなかったであろうような場合に、情報提供義務違反が問題になる。契約の有利な面についての情報だけが与えられた場合、情報劣位者は契約締結に向かわされて、他行為可能性が小さくなる(契約締結をしない可能性が減る)。これは他行為可能性の減少であり、すなわち自由の減少である。それに対して、契約について有利な点も不利な点も知らされれば、情報劣位者は他行為可能性が増える(契約をしない可能性が増える)。すなわち自由の増加である。

 つまり、情報優位者が情報提供することにより、契約のメリットもデメリットも明らかになり、そのことで情報劣位者の契約締結以外の行為の可能性が増大し、結局情報劣位者の契約自由が保護されることになるのだ。