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勤労の義務

 憲法の義務規定は、具体的な法的義務を定めたものではなく、倫理的指針、あるいは立法による義務の具体化の予告程度の意味しかないとされる。27条1項の勤労の義務もまた、法的義務ではない。

 ところで、野中他「憲法I」では、生活扶助などを受けるために勤労の義務を尽くしたことが条件とされていることが、勤労の義務の表れであるとされている。だが、「行為Aをしないと利益が得られないから行為Aをするように動機付けられる」、ということは、「行為Aが義務付けられている」こととは別のことではないか。「行為Aが義務付けられている」とは、「行為Aをしないと不利益を受けるから行為Aをするように動機付けられる」ということではないのか。

 働かないと生活扶助などの利益が得られないといっても、別に国民は働かなくても一向に構わないのである。国民は働くことを「義務付けられて」いない。だが、働かないと刑罰が科されるのならば、国民は働かざるを得ず、働くことを「義務付けられている」と言える。