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日常家事連帯責任

 組合的家族観によれば、日常家事とは夫婦共同体の共同事業であり、そこから生じた債務は夫婦が共同出資した組合財産からまず弁済される、として761条を説明する。この観点からは、条文には明示されていない夫婦の相互代理権も、代表者が組合財産を権限の範囲内で処分することができることによって説明される。

 個人主義的家族観では、761条は、日常家事に関する法律行為(債務負担)を収入のない妻でも自由に行えるようにするための制度とされる。この立場からは、相互代理権が論理的には導けないような気もする。だが、連帯債務を負うという結果を導くためには、妻は(1)自分の行為として債務負担すると同時に、(2)夫を代理する者としても債務負担する、と考えればよいのかもしれない。つまり、日常家事の範囲に属する債務負担は、自らの名においてする行為であると同時に、配偶者の名においてする行為でもある、と考えられないだろうか。完全な一人の行為でもなく、完全な代理でもない、そのような重畳的な行為のとらえ方は可能だろうか。

 つまり、日常家事連帯責任が含意するとされている相互代理権は、完全な代理権ではなく、自らにも法的効果を及ぼした上で、同時に配偶者にも法的効果を及ぼすという、奇妙な代理権なのではないか。