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公訴事実

 公訴事実とは、もともとの意味としては、訴因の背後にある生の犯罪事実である。だが、これは、あらゆる細部まで特定された完全に具体的で歴史的な事実なのか、それとも一定の抽象化がなされた事実なのか。

 訴因変更は公訴事実の同一性の範囲内でなされる(312条1項)。「2・3回殴った」という訴因と「4・5回殴った」という訴因は、基本的事実が同一であるゆえ、前者から後者への訴因変更は許されるとされる。

 「2・3回殴った」と「4・5回殴った」がともに同一の公訴事実の範囲内に含まれるのならば、そのときの「公訴事実」のとらえ方には二様ある。
(1)公訴事実を、細部にこだわらない抽象的なものととらえ、この場合だったら公訴事実は「数回殴った」という事実だと考える。
(2)公訴事実はあくまで完全に具体的なものであるが(例えば「確実に3回殴った」など)、両訴因はどちらも公訴事実からの乖離の程度が小さい。公訴事実の同一性の範囲内にあるとは、旧訴因と新訴因が公訴事実を媒介にして類似性によって結び付けられているということである。

 ここまで書いて教科書を読んだら、似たような議論が載っていた。(2)は公訴事実が審判対象とされるので、通説である事実記載説にはなじまないとのこと。このほかに、(3)公訴事実の同一性とはあくまで両訴因間の共通性の問題であり、公訴事実概念の存在意義は機能的なものに過ぎず、公訴事実に独自の実体はないとする説もあるようだ。私は(1)が妥当だと思う。

 けっこう、自分の問題意識について教科書がちゃんと答えを用意してくれていることが多い。教科書をもっとちゃんと読もう。