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期待権

 条件付法律行為というものも可能である(127)。例えばXが車を買ったときにその付属品をXY間で売買しようと約したとき、契約は現在成立するが、その効力が発生する=債権債務が発生するのはXが車を買ったときである。条件が成就するまで、それでは売買契約の代金債権はどうなっているのか。普通に考えれば、Xが車を買うときまでは代金債権は発生しないことになる。

 ところで、期待権というものがある。これは、条件が成就したときに合意した通りの効果が発生することを期待する利益であり、条件成就を妨害されたり契約の目的物が破壊されたりすれば、期待権の侵害として不法行為責任を問いうる(128)。この期待権は、契約成立以降、条件成就以前から存在し、効力を有している。

 河上「総則」を読んでいると、「条件付権利」なる言葉が詳しい説明抜きで出てくる。条件付権利は、契約の成立によって効力を有するに至る立派な権利であるように思われる。ただ、それが完全な効力を発生させるのは条件が成就してからである。この点、条件の成就を待ってはじめて効力を有する、契約の目的たる権利とは異なる。この条件付権利、すなわち「Xが車を買ったなら生じるYの付属品の代金債権」は、契約の成立の時点から効力を有するという意味で、期待権に似ていないか。

 つまり、こういうことだ。条件付法律行為がなされた場合、法律行為はその時点で成立し、法律行為の企図する権利は条件成就のときに効力を有するに至る。だが、条件付権利は法律行為成立の時点で成立し、限定的ながら効力を有し、その完全な効果の発生に対する期待という側面が「期待権」と呼ばれているのではないか。条件付権利は、条件の成就とともに、法律行為の企図する完全な権利となる。「期待権侵害」とは「条件付権利侵害」とも呼べる気がする。