- 作者: 山口厚
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 1982/09
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まず、危険判断の方法を定式化しているところが注目すべき点だ。(1)判断の基礎、すなわちいかなる事実を基礎に危険を判断するかというレベルと、(2)判断の基準、すなわちいかなる内容の法則的知識を用いて危険を判断するかというレベルにわけている。これは結局因果関係の判断と同じことをしていて、本書が危険を既遂結果と同じ「結果」としてとらえている以上、当然の判断方法といえよう。
本書はもっぱら判断の基礎について吟味しているのだが、その基礎となる事実を選別する(すなわち抽象化する)視点として、事後的客観的視点を定立している。そのような視点から判断される危険には様々な程度があり、それは、(1)具体的危険(2)準具体的危険(3)準抽象的危険(4)抽象的危険、の順に法益侵害の可能性が低減する。具体的危険犯と抽象的危険犯の区別は、法文上危険の発生が要求されているかどうかで決まる(危険の発生が要求されていれば具体的危険犯)。
(1)具体的危険犯の成立は、現実に存在する個別具体的な客体について侵害が生ずる可能性を具体的に判断することで認められる。
(2)準具体的危険犯は、保護の対象が多数ないし不特定の法益の場合に、行為・手段の危険性に重点をおいて少し早い段階で成立する具体的危険犯である。
(3)準抽象的危険犯の成立は、構成要件該当行為の成立だけではなく、具体的・実質的な考慮を必要とする抽象的危険犯である。
(4)抽象的危険犯は、構成要件該当行為だけで基本的に成立するが、およそ法益侵害がありえないような場合には成立しない。
行為それ自体の危険性が大きければ、それだけ早い時点で刑法が介入することができ、抽象的危険犯として処罰できる。逆の場合は、具体的な状況に応じて危険発生を判断する必要があり、具体的危険犯となる。
法律学の専門書を読破したのはこれで2冊目だ。本書についても、まだまだ考えなければならない点は山ほどあるが、危険判断の方法、危険犯の類型を明確に提示したところに功績が認められると思う。刑法における「危険」概念の内容がだいぶ豊富化した。読みやすかったが、議論の展開で根拠付けが不十分なところが多かった。更なる研究が待たれる。