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法律学と自然科学

 自然科学は、理想的な状態を作り出し、厳密な手続に従って実験をすることでデータを集める。集まったデータという事実をもとに、その背後にある法則を導き出す。

 この一連の流れが、法システムにおける訴訟手続に似ていないだろうか。法廷という理想化された場所において、公開対審口頭弁論などの厳密な手続にしたがって事実や証拠を集める。集まった事実や証拠をもとに、それを評価して法的効果を導き出す。

 だが、自然科学者の行う実験の手続が、研究の成功という共同の利害を有する者たちによって一面的に行われるのに対し、訴訟手続は対立する利害を持つ者同士によって多面的に行われる。だから、実験手続では利害の調整が問題とならないのに対し、訴訟手続では利害の調整が問題となる。

 また、自然科学者が実験の結論を得るために用いるのは帰納法であるが、裁判官が裁判を下すときに用いるのは法的三段論法である。

 結局、大上段に抽象論を述べるのではなく(「万物は水でできている」とか「明らかにこいつが悪い」とか)、厳密な手続を踏んで事実を集めた上で判断を下すという手続的な判断方法は人間の文化全般に見られることであり、その意味では訴訟手続も実験手続も似たようなことをしているといえよう。