- 作者: 加藤尚武
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/02/07
- メディア: 文庫
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我々が当たり前だと思っていて特に意識的に定式化していない判断原理を、ひとつひとつ丁寧に定式化していく。定式化される判断原理の中には、自分が採用しているものとは異なるものもあり、自分の判断が絶対でないことがわかる。そして、自分が正しいと思っていた判断原理でもさまざまな理論的・実践的な難点があることに気付かされる。
現代社会は功利主義・自由主義・民主主義を採用していることが説かれて、ひとまず納得する。だが、徐々に読んでいくと、それらの原理が実はそれぞれに理論的・実践的な難点があることがわかり、それを克服するために理論が変貌を遂げていくことがわかる。つまりそこには、単純な原理と複雑な現実との格闘があり、現実に適応するために理論が変貌していくのである。
さて、法律学にとって倫理学とは何であろうか。まず、倫理学とは、法の定立・解釈・適用において自明とされている原理を可視化し、それを批判的・哲学的に検討することを可能とする学問である。次に、倫理学の現実との適応を、社会の現場で詳細にやっているのが法律学である。つまり、法律学は倫理学が現実と接するときの先端であり、倫理学は法律学が現実と接するときの基盤を作るものである。