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手続

 いつも思いつきばかりで申し訳ないが今回も思いつき。敗訴当事者が判決の効力を受ける根拠を、その当事者が訴訟において手続保障を受けたことに求める見解がある。刑事事件だったら、検察官の主張が真実だとという心証を裁判官に抱かせないように被告人に防御する機会を与えたからこそ、有罪判決は執行できるのだ。これは、手続を踏んだ方が実体的真実に、より近付けるという考慮もあるだろうし、そもそも自分がかかわったとされる事実の真偽については自分の信じるところを述べること自体が被告人の利益であるという考慮もあるだろう。

 だが、それ以前に、刑罰法規が周知されているということが、第一次的な手続保障なのではないだろうか。国民にどういう行為が違法であるのか知らせる。そのことによって、国民は法を犯すか犯さないか選択できる。法を犯したものを処罰できるのは、よく言われるように、国民が自分の行為の違法性を認識しながらあえてその行為をしたからだ。だとしたら、違法性の意識の可能性を提供する刑罰法規の周知がなければ、そもそも処罰の根拠が与えられないのである。国民としては、何が違法であるか知らされなければ、自分の行為の法的効果について予見不可能になってしまい、行動が委縮する。刑事訴訟法上の手続以前に、まず実体法が周知されるという手続こそ、もっとも基本的な手続なのではないだろうか。