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弁護人のパターナリズム

 ある業界に明るくない人が、もしくはその業界でやっていく能力に乏しい人が、全くの自由な意思で行動すると、却ってその人の不利益になることがある。そういう場合、そういう人を守ってあげる人が必要だ。そういう人の自由を制限したり、そういう人の意に反しても代わりに行動してやったりする必要がある。これがパターナリズムである。その業界においてはもはや利益を実現するためのノウハウが蓄積されており、未熟な人などはそのノウハウを知らないため、自己の欲するままに行動することが却って自己の不利益になるのである。

 このようにして、未成年者の人権はある程度制限されるし、弁護人の独立代理権が認められるのである。未成年者は人生についてその生き方をよく知らない人だ。だが社会には、利益を実現するために望ましい生き方についてのノウハウが蓄積されている。そのノウハウをある意味未成年者に押し付けるのである。同じように、被告人というものは訴訟の仕方についてノウハウが乏しい。だから、被告人の意に反しても、弁護人は勾留理由開示請求とか、保釈請求とか証拠保全請求とかができるのである。刑事訴訟の現場をよく知らない被告人が、自らの意思だけに従って行動することによって生じる不利益を回避するために、刑事訴訟のノウハウを知っている弁護人がパターナリスティックに代理するのである。