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法人処罰

 独禁法95条には、法人の代表者や従業者が違反行為をしたとき、違反者だけでなく法人も処罰するとしている。判例は法人処罰・両罰規定の根拠を他人の違反行為に対する監督義務違反の推定に求めている(過失推定説)。ところで法人は責任主体になりえるのだろうか。責任とは、故意や過失によって生じる。つまり、規範に直面しながらあえて罪を犯す、結果が予見可能で回避可能であるにもかかわらず注意を怠る、そういう心理作用に責任が突き刺さっていくのだ。ところで、法人もまた意思決定の主体である。確かに意思決定には多数人が関わるが、それは共謀がなされるときや、互いに罪を犯さないように配慮する義務を負う過失の共同正犯のときも同じである。多数人であるからと言って責任の主体になりえないということはない。法人の責任は、法人の意思決定をする多数人の主観における故意・過失に向けられるのである。意思決定ができる以上、意思決定の主体としての責任主体は存在する。法人が意思決定できる以上、法人も責任主体なのである。

 そして、法人は代表者や使用人に対して支配的な地位にあり、代表者や使用人を監督するべき地位にある。そもそも代表者や使用人を動かすことで利益を得ている以上、彼らの行為についても、罪を犯さないように配慮する義務があるのだ。その義務に怠るということは過失であり、両罰規定は結局この過失を処罰していることになる。共同者に主従の別がない過失の共同正犯ですら判例は認めている。そこには互いに注意し合うべき共同関係があるからだ。ましてや法人は代表者や使用人を支配し、彼らの行動を逐一監視すべき地位にあるのだから、その義務に違反した以上、過失責任を負うのは当然である。