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内藤淳『自然主義の人権論』

自然主義の人権論―人間の本性に基づく規範

自然主義の人権論―人間の本性に基づく規範


 人権は普遍的なもの、前国家的なものだと憲法の通説は教える。だが、歴史的・地理的に見れば、人権というものは近代市民革命以降の立憲主義国家にのみ存するのであって、人権は実は相対的なものではないかとも思われる。人権正当化論は、人間性を重視したり自律性を重視したり自己愛を重視したりという特定の価値観に基づいていて、その価値観の根拠を説明できていない点で正当化に失敗している。そのような、特定の価値観に依存しないやり方で人権の普遍性を示したのが本書である。

 本書は、生物学の観点から、人間の最大公約数として「繁殖に向けて生きる」という事実を抽出する。そして、繁殖に向けて生きるためには集団を形成することが不可欠であり(富の分配や分業、他の集団との対抗のため)、その集団の中での資源配分原理が法として定立されるのである。集団内のメンバーへの繁殖資源獲得機械の配分を合理的に行う、つまり、不当に優位に立ったり不当に搾取されたりするものが存在しないようにして、集団を安定・維持するためには、人権を保障するのが合理的である。

 これは、事実(人間の本性)から規範(人権)を導くものであるが、目的(繁殖)のためにはそれに適した手段(人権の定立)をすべき、というのは、事実から規範を導く正しい推論である。そして、例えば生命・身体の自由は、繁殖の前提の生存を守るために必要であり、婚姻の自由は、まさに繁殖をするために必要、という具合に、様々な基本的人権は、人間の繁殖に向けて生きるという生物学的事実を目的とする手段として規範化される。

 繁殖に向けて生きる、ということが人間にとって普遍的な事実であるならば、その手段である人権もまた、人間にとって普遍的な規範なのである。