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市川浩『身体論集成』(岩波現代文庫)

身体論集成 (岩波現代文庫)

身体論集成 (岩波現代文庫)

 世界は身体との関係で意味を持ち、身体の在り方に従って分節化される。と同時に、身体もまた世界との関係で意味を持ち、世界の在り方に従って分節化される。この分節化(身分け)において、文化、社会というものが重要な役割を果たす。そして、そのような空間的関係化は、身の時間的関係化の始まりをなすものである。

 さらに認識的な、知の媒介を借りた身と世界との関係化は「身知り」であるが、それには常に身分けが先立っている。身分けはコミュニケーションにおいても発生するものであり、それは言語外の身体的コミュニケーションとして生じる。

 そして、世界は単に身との関係の錯綜体であるだけではなく、身との関係の可能性の錯綜体でもある。だから、自己と他者との関係は、関係と関係の可能性両方が絡み合った錯綜体同士が、さらに絡み合うという複雑な出来事である。

 ところで、身と世界との関係といった場合、そこにおける「世界」とは、家・都市・宇宙だったりするわけで、それぞれのレベルでそれぞれの身分けがなされるのである。

 また、身にとって、上下、右左、前後はそれぞれに異なった意味を持ち、また特定の神殿などが超越化されたりもする。世界は均質な空間なのではなく、不均質で様々な異なる意味を持った空間の体系なのである。

 芸術はエロティシズムであると同時に、虚構によって世界を多義化する装置であり、直接的な感覚から距離を持ち、感覚自体を楽しむという行為を生み出す。芸術は自然を指示したり作者の主観を表現したり、読者の感覚を誘発したりするが、受容者は芸術を、知覚・感情・記憶が一体となった器官で受容する。

 本書は身体論なので、社会との接点はそれほど多くなく、多分に思弁的であるのだが、身体が世界との文化的関係である、という規定に文化が入り込んでいるし、人間の他者との相互関係においても、関係化した身体同士の間錯綜体関係というヴィジョンが呈されている。さらに、都市空間や宗教儀式についても、身体とのかかわりにおいて考察がなされている。だから、文化やコミュニケーション、都市や宗教について、人間の身体との照応という観点から見直すことができる。