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家田義隆『マキァヴェリ』(中公新書)

マキァヴェリ―誤解された人と思想 (中公新書)

マキァヴェリ―誤解された人と思想 (中公新書)

 本書は、マキァヴェリの生きた時代のフィレンツェ、イタリア、フランス、スペインなどの歴史状況を丹念に記述し、特に、統一されていないイタリアの状況、権謀術数渦巻くフィレンツェの状況、またマキァヴェリの外交官としての活動を前提にして、彼の思想がいかに形成されていったかを歴史的に解明していっている。

 ルネサンス時代まで、イタリアは、力あるものが互いにしのぎを削り合い、意志と狡猾さを頼りに正当性などお構いなしに争い合っていた。マキァヴェリは、そのようなイタリアを統一するだけの力のある君主の到来を望んでいたのである。それが、策謀と力により、多少の誠実さを犠牲にしてもよく、恐れられる君主の出現である。だが、彼は平和時には策謀はむしろ害であることも説いている。

 だから、マキァヴェリの力を重視する君主観は、当時のイタリアの世相を汲み取ったうえで理解しなければならず、彼の思想を文言だけ取り出して批判してはならない。後代にはそのような誤解が多数見受けられた。

 本書を読んでいて、いよいよマキァヴェリの思想に差し掛かった時は感慨を禁じ得なかった。そこにいたるまでの長いイタリア史の記述、マキァヴェリの人生、それを前提として、そこに文脈づける形で彼の思想が紹介されていて、「思想が時代を反映する」というよく言われるテーゼをはっきりと例証してくれている。