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小川仁志『はじめての政治哲学』(講談社現代新書)

 

はじめての政治哲学――「正しさ」をめぐる23の問い (講談社現代新書)

はじめての政治哲学――「正しさ」をめぐる23の問い (講談社現代新書)

 

  本書は政治哲学の論点と学説をコンパクトにまとめた入門書である。この本を読んだだけで全体の大まかな議論は分かるが、これはあくまでインデックスに過ぎず、これを手掛かりにより詳細な議論へと導くものである。

 内容は法学・政治学を学んだ者なら一度は聞いたことのあるような論点ばかりだが、それをより哲学的・原理的に考えている。本書の主要な主張というのは、「第三の道」の可能性に尽きると思われる。公と私、自由主義と社会主義、国家主権とグローバル化、など政治哲学の領域には様々な対立軸があるが、その対立の間隙を縫うような思考法、そしてそれを可能にする市民の力、そこに来るべき政治と社会の在り方を探っていく、それが本書の基調となるテーマである。

 思想は時代を反映する。現代において、市民はその権利を広範に獲得し、発言力を増し、またその活動をより効果的に行うために多数の団体を形成している。国家でもなく、民族でもなく、市民の自由で主体的な集合が力を増している時代である。それゆえ、政治思想においてもそのような力を増した市民の積極的な役割に多くが期待されている。我々一人一人が、時代のニーズと思想のニーズに応えていかなければならない。